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相続した農地の納税猶予条件とは? - 農地と納税猶予 後編
目次
前編の記事では、農地等の贈与税の納税猶予の要件から手続き、
打ち切り事由までご紹介しました。
後編では、農地等の相続税の納税猶予の要件や必要な手続き、
納税猶予の効果と打ち切り事由を解説します。
農地等の相続税についても納税猶予制度があります。
贈与税の場合と同様、
①贈与者の要件、②受贈者の要件、③特例農地等の要件
以上の3つがあります。
被相続人は、次のイ~ニに該当する人であることが必要です。
イ)死亡の日まで農業を営んでいた人 ロ)農地等の生前一括贈与をした人 ハ)死亡の日まで相続税の納税猶予の適用を受けていた農業相続人又は農地等の生前一括贈与の適用を受けていた受贈者で、障害、疾病などの事由により自己の農業の用に供することが困難な状態であるため賃借権等の設定による貸付けをし、税務署長に届出をした人 ニ)死亡の日まで特定貸付けを行っていた人
※特定貸付けとは、市街化区域内農地等以外の農地又は採草放牧地について行う地上権、永小作権、使用貸借による権利又は賃借権(賃借権等といいます。)の設定によるもので、
農業経営基盤強化促進法所定のものをいいます。
相続人は、被相続人の相続人であり、かつ次イ~ニに該当する必要があります。
イ)相続税の申告期限までに農業経営を開始し、その後も引き続き農業経営を行うと認められる人 ロ)農地等の生前一括贈与の特例の適用を受けた受贈者で、特例付加年金又は経営移譲年金の支給を受けるためその推定相続人の1人に対し農地等について使用貸借による権利を設定して、農業経営を移譲し、税務署長に届出をした人(贈与者の死亡の日後も引き続いてその推定相続人が農業経営を行うものに限ります。) ハ)農地等の生前一括贈与の特例の適用を受けた受贈者で、障害、疾病などの事由により自己の農業の用に供することが困難な状態であるため賃借権等の設定による貸付けをし、税務署長に届出をした人(贈与者の死亡後も引き続いて賃借権等の設定による貸付けを行うものに限ります。) ニ)相続税の申告期限までに特定貸付けを行った人(農地等の生前一括贈与の特例の適用を受けた受贈者である場合には、相続税の申告期限において特定貸付けを行っている人)
次のイ~ホのいずれかに該当するものであり、相続税の期限内申告書にこの特例の適用を受ける旨が記載されたものであること(次節参照。)が必要です。
イ)被相続人が農業の用に供していた農地等で相続税の申告期限までに遺産分割されたもの ロ)被相続人が特定貸付けを行っていた農地又は採草放牧地で相続税の申告期限までに遺産分割されたもの ハ)被相続人が営農困難時貸付けを行っていた農地等で相続税の申告期限までに遺産分割されたもの ニ)被相続人から生前一括贈与により取得した農地等で被相続人の死亡の時まで贈与税の納税猶予又は納期限の延長の特例の適用を受けていたもの ホ)相続や遺贈によって財産を取得した人が相続開始の年に被相続人から生前一括贈与を受けていたもの
ここでいうところの農地には、上述した生産緑地も含まれています。
よって、贈与税と同様、平成29年改正でこの面積要件を緩和されたことでより多くの農地が特例農地等に含まれ得ることになります。
相続税の特例を受けるためにも、贈与税の場合と同様、
相続税の申告書に一定の書類を添付して期限内(被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内)に提出するとともに農地等納税猶予税額及び利子税の額に見合う担保を提供することが必要です。
納税猶予期間中は相続税の申告期限から3年目ごとに、
引き続いてこの特例の適用を受ける旨及び特例農地等に係る農業経営に関する事項等を記載した届出書(この届出書を「継続届出書」といいます。)を提出することも同様に必要です。
納税猶予を受けることになると、農地の相続税の納税が猶予されます。この猶予は譲受人が耕作を続ける限り続き、一定の要件を満たすと猶予されていた納税額が免除されます。
一定の要件とは次のイ~ハです。
イ)特例の適用を受けた農業相続人が死亡した場合 ロ)特例の適用を受けた農業相続人が特例農地等(この特例の適用を受ける農地等をいいます。)の全部を租税特別措置法第70条の4の規定に基づき農業の後継者に生前一括贈与した場合(特定貸付けを行っていない相続人に限ります。) ハ)特例の適用を受けた農業相続人が相続税の申告書の提出期限から農業を20年間継続した場合(市街化区域内農地等に対応する農地等納税猶予税額の部分に限ります。)(特例農地等のうちに都市営農農地等を有しない相続人に限ります。)
※市街化区域内農地では、三大都市圏の特定市街化区域と一般市街化区域(非三大都市圏)とに分かれます。それそれに生産緑地と市街化農地とがあり、固定資産税の額で大きな差異があります。その組み合わせと固定資産税の関係は以下の表 のとおりです。
市街化区域内農地 | ||
三大都市圏の特定市街化区域 | 一般市街化区域 | |
生産緑地 | 農地評価 | 農地評価 |
農地課税 | 農地課税 | |
市街化農地 | 宅地並み評価 | 宅地並み評価 |
宅地並み評価 | 農地に準じた課税 |
※都市営農農地等とは、生産緑地地区内にある農地又は採草放牧地で、三大都市圏の区域内に所在し、生産緑地法規定の買取り申出がなされていないものを言います。
次のいずれかに該当することとなった場合には、納税猶予が打ち切られ、その納税猶予税額の全部又は一部を納付しなければなりません。
イ)特例農地等について、譲渡等があった場合 ロ)特例農地等に係る農業経営を廃止した場合 ハ)継続届出書の提出がなかった場合 ニ)担保価値が減少したことなどにより、増担保又は担保の変更を求められた場合で、その求めに応じなかったとき ホ)都市営農農地等について生産緑地法の規定による買取りの申出があった場合や都市計画の変更等により特例農地等が特定市街化区域農地等に該当することとなった場合 ヘ)特例の適用を受けている準農地について、申告期限後10年を経過する日までに農業の用に供していない場合
※イの譲渡等には、譲渡、贈与若しくは転用のほか、地上権、永小作権、使用貸借による権利若しくは賃借権の設定若しくはこれらの権利の消滅又は耕作の放棄も含まれます。
元来、納税猶予の趣旨は、農業の後継者への承継を促進することにあります 。上記のような事由は、その趣旨に反するため、農地であっても納税猶予が打ち切られてしまいます。
猶予が打ち切られてしまった場合、納税猶予税額の全部または一部を納付しなければならず、影響は大きいです。
さらに、農地の中でも、市街化区域内にある農地の場合は、宅地に近い額の課税がなされるうえに利子を付けて支払う必要があるため、多額の納付額になります。
これらの影響を鑑み、どのような場合に打切りがなされるのかには注意しておく必要があります。
上述のように平成29年の税制改正により、生産緑地指定の要件が緩和されたことで、結果として納税猶予を受けることが可能となる農地が増える可能性が大きくなりました。
しかし、平成28年5月に閣議決定された「都市農業振興基本計画」に記載された土地利用に関する事項の中で、今回の改正により未だ実現されていない部分もあり、今後の課題とされています。
納税猶予に大きく関連するものとして、生産緑地が市民農園等として貸借された場合の相続猶予制度の適用について検討すること等があり、今後の税制改正の行方をさらに追っていく必要があります。
※2018/06/21 追記
生産緑地を賃借しても相続税の納税猶予が適用される、都市農地の賃借の円滑化に関する法律が6月20日に全会一致で可決・成立いたしました。
今回も前後編にわたりボリュームのある記事となりました。
納税猶予という現在ホットな制度問題を理解する一助となることを願っています。
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