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農地の売買・賃貸借の方法- 農地の売買・賃貸借(後編)
前編の記事では、農地法3条一般について解説しました。今回は、売買・賃貸借それぞれについて解説していきます。一部前編と重複する部分もありますが、合わせてご覧ください。
そもそも土地の売買で農地法3条の許可が必要となるのは、当該地が現況も売買後も農地である場合のみです。
登記簿上は農地である土地でも現況が農地でなければ農地法3条の許可は必要ありませんし、逆に登記簿上は農地でない土地でも現況が農地であれば3条許可が必要になります。
また、売買ののちに転用が予定されているような場合は、3条ではなく農地法5条の許可が必要になります。
農地を売買する際の手続きとしては、農地法3条許可を得ることに加えて、所有権の登記を移転させることも必要になります。登記を移転できるのは権利の移転が完了した後なので、3条許可を得たのちに所有権移転登記の申請をすることになります。
所有権移転登記についても共同申請が原則であり、売主と買主が共同で申請しなければなりません。なお、登記申請を司法書士に委任する場合は、売主買主双方の委任状が必要になります。また、登記申請の際には許可証の原本を添付することになっています。
この登記申請は許可を得るまでできませんが、許可がなくとも仮登記をすることができます。
仮登記とは、登記申請に関して実体法上・手続き上の不備がある場合に登記順位を確保するため予備的に登記をすることをいいます。登記の優先順位は登記がなされた順番で決まるため、より早く登記をするほうが有利になります。
そして、仮登記をすると一般的な対抗力は持たないものの登記順位を確保することができます。すなわち、仮登記をするとそれ以降に登記をした者よりも登記の上で優先されます。そのため、3条許可が出る前に仮登記を申請して登記順位を確保するという形で使われることもあります。
ただ、仮登記は権利状態として不安定であり、所有している土地の仮登記をそのまま放置しておくと相続などの際に混乱を生ずるおそれがあります。場合によっては裁判で仮登記の取り消しをすることもできるので、専門家に相談することも考えるべきでしょう。
なお、売買契約を結ぶ際には3条許可が必要ですが、許可があったことで売買契約の瑕疵が治癒されることはありません。すなわち、契約に錯誤・詐欺などがあったときには、許可を得たあとでも無効・取消を主張することができます。
また、売買契約の瑕疵による無効主張・取消権行使や債務不履行を原因とした解除など、売買がなかった状態に戻すような行為・主張をする場合には3条許可は不要です。
なぜなら、取消や解除は元の所有者への復帰を意味するものであり、農地法3条の趣旨に合わないといえるためです。
農地の賃貸借についても3条許可についてのルールが基本的に当てはまりますが、一部例外規定が設けられている点もあります。
農地法3条2項二号は、農地所有適格法人以外の法人に対する権利の移転・設定、四号は農作業に常時従事すると認められない者に対する権利の移転・設定を許可できないと定めています。
しかし、農業生産の担い手確保の観点から、同条3項は、3条2項二号、四号に該当する場合、すなわち、一般の法人や農業に常時従事すると認められない個人に対する賃貸借であっても、次の要件をすべて満たすときは、市町村長の意見を受けたうえでの許可を認めています。
一 これらの権利を取得しようとする者がその取得後においてその農地又は採草放牧地を適正に利用していないと認められる場合に使用貸借又は賃貸借の解除をする旨の条件が書面による契約において付されていること。
この規定は、「農地を農外利用されるのではないか」「農地を貸すと返ってこないのではないか」といった所有者側の不安を取り除き、賃貸借が積極的に行われるようにする目的の規定です。
この規定に従った契約を結ぶことで、特段の事情がない限り、農地の本来の特性・用法に従った耕作が行われていない場合には所有者は催告なく賃貸借契約を解除することができます。
なお、農地の賃貸借契約の解除は都道府県知事の許可を要しますが(農地法18条)、あらかじめ農業委員会に対して届出をしておけば都道府県知事の許可なく賃貸借契約を解除することができます。
二 これらの権利を取得しようとする者が地域の農業における他の農業者との適切な役割分担の下に継続的かつ安定的に農業経営を行うと見込まれること。
農地は地域全体がかかわりあう土地利用形態であるため、農地を利用する者には周囲の農業者との協力や安定した農業経営が期待されます。このことは利用者が法人であっても変わりません。
そこで、このような条件を定め、一般の法人にも周囲との協力・安定した農業経営を求めています。
具体的には、「適切な役割分担」は共同利用施設の取り決めや農業の維持発展についての話し合いへの参加などを指し、確約書などを結んで法人の態度を判断します。
「また、継続的かつ安定的」については機械や労働力等の確保状況から長期的・継続的な経営の見込みがあるか判断します。
三 これらの権利を取得しようとする者が法人である場合にあっては、その法人の業務を執行する役員又は農林水産省令で定める使用人(次条第一項第三号において「業務執行役員等」という。)のうち、一人以上の者がその法人の行う耕作又は養畜の事業に常時従事すると認められること。
法人における農業経営の責任者を明確にして、地域とのかかわりを円滑に進めるという目的からこのような規定が置かれています。
ここで求められているのは農業経営に責任を持つものであるため、業務執行役員は必ずしも農作業にかかわる必要性はなく、営農計画策定などのデスクワークを主に行う者であってもよいとされています。
農地についても賃料は当事者の意思により、自由に決定することができます。賃料の決定の参考情報として、農業委員会が実際に締結された契約の賃料を調査し、目安となる値を発表しています。
また、契約期間中であっても、賃料が不適切である場合には当事者が賃料増減額請求権を行使し、賃料を適切な額に増減額することができます。
農地についての賃料増減額請求権を行使することができるのは、「農産物の価格若しくは生産費の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により又は近傍類似の農地の借賃等の額に比較して」賃料が不相当な額になった場合です。
なお、租税公課の増減は要件に含まれていないため、税法の改正によって課税額が小作料を大きく上回った場合でも賃料増額請求権を行使することは認められないとする判例があります。
賃料増減額請求権を行使すると、その時点で賃料が適切な金額に変更されますが、行使された相手方は、自らが適切だと考える賃料を支払・請求することができます。
農地の賃貸借の当事者が賃貸借の解除・解約申入・合意解約・更新拒絶の通知をする場合は、原則として事前に都道府県知事の許可を得る必要があります。
よって、両者の合意がある場合や一方が賃料を支払わない場合であっても、都道府県知事の許可がなければ契約を終了させることはできません。
また、農地法17条、民法617・618条と比べて借地人に不利となる特約は効力をもたないことが定められています。
すなわち、期間の定めのある賃貸借契約で通知がなければその期間の満了と同時に契約終了という特約を定めることはできず、6か月前までに更新拒絶の通知をしなければ、同じ条件で新たに賃貸借契約を結ぶこととなります(法定更新)。
また、解約の申し入れがあれば即日契約が終了するという特約を結ぶことはできず、耕作の季節の始まる前に解約の申し入れをした上で、その日から1年後に契約終了となります。これは小作人の安定した耕作の保護という趣旨によるものです。
最後に賃貸借の方法の一つとして、農業経営基盤強化促進法による賃貸借についても簡単に解説します。
農業経営基盤強化促進法とは、市町村が主体となって、地域の集団的土地利用や農作業の効率化等を促進する法律です。
そのため、市町村が主導で農地の出し手と受け手の情報を収集し、市町村の基本構想に定めた要件を満たす担い手農家等へ、農地の売買・貸借により農地を集積するため農用地利用集積計画を作成し公告します。
この計画が公告されると、利用権設定の効果が発生します。なお、農業経営基盤強化促進法は賃貸借のみならず売買も対象にしていますが、今回は賃貸借について説明します。
この制度を利用して賃貸借を行うための要件の詳細は割愛しますが、集団的・効率的な農地の利用のための制度であるため市町村の構想に合致した土地である必要があり、また借り手が担い手として認められる必要があるため、農地法による賃貸借よりも利用は難しいといえます。
農地法に基づく賃貸借との効果の違いとしては、権利移動の許可が不要であること、法定更新が適用されないことがあげられます。そのため、特に貸し手にとっての負担は農地法による賃貸借と比べて少なくなり、農地を貸し出しやすくなります。
前編の内容も含めて農地の売買・賃貸借などについて振り返ります。
①農地の売買・賃貸借など権利の移転・設定は原則として当事者双方が共同して農業委員会に許可を得ないと効果がない ②権利の移転・設定を受けられるのは原則として個人か農地所有適格法人 ③賃貸借のときは一定要件を満たした一般の法人でも可 ④許可が必要ない場合でも権利を取得した場合は農業委員会に届出をする必要あり ⑤売買の際は当事者双方による登記申請も必要
前編でも書きましたが、許可なく権利の移転・設定を行うと三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する、とされています。
権利の移転・設定を行う際には事前に農業委員会などに相談し、手続について助言を受けることをお勧めします。
また、今回は触れていませんが、生産緑地指定に伴う制限や、納税猶予に伴う相続税・贈与税の検討も必要になってきます。そうした観点からも検討が必要であるため、入念な検討を行いましょう。
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